「HACCPに沿った衛生管理」で作成、運用することが求められている「衛生管理計画」は、原材料の受入確認、冷蔵庫の温度管理、手洗いなど衛生管理の基本となる“一般衛生管理”、加熱、冷却など調理工程で実施する“重要管理”の2つの計画からなっています。今回から基本となる“一般衛生管理”について解説をしていきます。
まずは「手洗い」です。食品の調理や製造に携わる皆さんにとっては、とても大切で基本的なことです。手洗いは適切なタイミングで確実にできていますか? “なぜ手を洗うのか” “どのタイミングで洗うのか”などを解説していきます。
(参考)
厚生労働省HP
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」の「④-2 衛生的な手洗いの実施」
食品等事業者団体が作成した業種別手引書 (mhlw.go.jp)
目次
食中毒の発生状況から
まずは食中毒の発生状況から見てみましょう。
■施設別では“飲食店”が一番多い
令和3年の食中毒事件の総数は717件、患者数は11,080人でした(下記左グラフ)。ここ数年、事件数、患者数とも減少傾向となっています。
施設別に見てみると、「飲食店」の発生件数が一番多く、事件数で283件(39.5%)となっています(下記右グラフ)。コロナ禍で飲食する機会が減ったことも関係しているのではないかと思いますが、平成30年の722件と比較すると大幅に減少しています。食中毒事件の約4割は飲食店で発生しているのが実態です。
■飲食店で多い食中毒
令和3年に飲食店で発生した食中毒(細菌、ウィルス)で一番多いのは、カンピロバクター(事件数104件、患者数508人)、次いでノロウィルス(事件数30件、患者数739人)となっています(e-Statの食中毒統計調査データから)。
カンピロバクターは、鶏や牛などの家きんや家畜、ペット、野鳥、野生動物など多くの動物が保菌しています。原因食品として鶏肉と疑われるものが多く報告されています。十分加熱調理する、調理器具の洗浄や手洗いにより二次汚染を防止するなどの対策が必要です。
ノロウィルスは、感染力の高いウィルスです。食中毒菌の多くは10万個~100万個の菌で発症しますが、ノロウィルスは100個程度というかなり少量でも感染し発症します。発生した食中毒の約8割は調理従事者に由来し、さらにその半分は発症していない調理従事者に由来しているとの報告もあります。
調理従事者は、日頃から衛生的な手洗いをすること、また健康管理には十分注意する必要があります。
(参考)
厚生労働省HP
ノロウィルスの情報、予防対策
食中毒の原因(細菌以外)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
衛生的な手洗いをしましょう!
食中毒の発生状況やその対策からも分かるように、手洗いはとても大切です。
■なぜ手を洗うの?
人の手は色々なところに触れます。そのため、手には汚れ、細菌、ウィルスなどが付着することがあります。
調理を介して食材や調理器具などを汚染したり、手洗いせずに食事をすることで経口感染し、食中毒につながる恐れがあります。調理前や食事前に手洗いをすることは、食中毒を予防するために大切なことです。
■手洗いをしても汚れが残りやすいところ
手を洗う目的は、手に付着した汚れ、菌、ウィルスをできるだけ洗い落とすことにあります。下の図は手洗い後に洗い残しが多いところを示した図です。
手の先(爪)、手の間、手のシワなど、これらは洗いにくいところです。手洗い場には“手洗いマニュアル“を掲示しているところも多いのではないでしょうか?
手洗いマニュアルは汚れが残りやすい箇所がきれいに洗えるように構成されています。ただ手洗いをすればよいということではなく、汚れが残りやすい箇所を認識すること、実際に手洗いするときにはそれらを意識しながら実施することが必要です。
■いつ手を洗うの?
手洗いはタイミングが大事です。子供の頃を思い出してください。親からこのような言葉をかけられませんでしたか?
「外から帰ってきたら、まず手を洗いなさい」
「トイレのあとは手を洗いなさい」
「食事の前に手を洗いなさい」
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」の「④-2 衛生的な手洗いの実施」では、手洗いのタイミングの例を下記の図のように示しています。
厚生労働省令「一般的な衛生管理に関する基準(別表第17)」においても、食品を取り扱う者の衛生管理として、「爪を短く切るとともに手洗いを実施し~」、「用便又は生鮮の原材料若しくは加熱前の原材料を取り扱う作業を終えた時は、十分に手指の洗浄および消毒を行うこと」とされています。
改めて、適切なタイミングで手が洗えているのか再確認してみましょう。
■衛生的な手洗いの手順は?
手洗いの手順は、厚生労働省HPにも紹介されていますので参考にしてみて下さい。
手洗いの手順に従って、手洗いをしていきます。手洗いの効果を上げるためには、あらかじめ爪を短く手入れし、指輪などの装身具を外しましょう。洗剤はしっかり泡立て、汚れの残りやすい箇所に注意しながら、指の先(爪の間)、指と指の間、手のシワ、手首など、時間をかけて丁寧に手を洗いましょう。洗い終わったら十分流水ですすぎましょう。すすいだらペーパータオルなどで十分に水気を切ってから、アルコールなどの殺菌剤を使用しましょう。
お店で働くスタッフには、手洗いの目的やタイミング、手順など、一度だけでなく、繰り返し指導しましょう。
厚生労働省HP
「ノロウィルス等の食中毒防止のための適切な手洗い」
食中毒の原因(細菌以外)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
■“使い捨て手袋”をしているから大丈夫!?
調理時、盛付時に使い捨て手袋を着用しているから大丈夫と過信してはいけません。使い捨て手袋を使用するときは、以下に注意することが大切です。
①【着用時の手袋汚染防止】手袋を着用するとき、交換するときには衛生的な手洗いする。
②【着脱時の手指汚染防止】外した手袋は再度着用せず、新しいものと交換する。
③【二次汚染、増殖など防止】作業が変わったとき、長時間作業するときは定期的に交換する。
■まとめ
今回は衛生的な手洗いについて解説してきました。毎日毎日手洗いをしていると、そのうちについつい簡単に済ませてしまいがちです。
なぜ手洗いが必要なのか、どんなタイミングで手洗いをするのか、手洗いをする手順など、衛生管理の基本である手洗いについて考えるきっかけにしていただければと思います。